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部屋にいながらにして、様々な場所へ

旅が出来る

その名も『移動型恐竜マンション』

最先端のテクノロジーで作られた、

画期的な「歩くマンション」である。

 

常に新しい感性を求められる今の時代にあって

この恐竜マンションは、発売と同時に

一躍脚光を浴びた。

刺激を求めた人々は、次々にこのマンションに

移り住んで行った。

恐竜マンションの住人たちは『恐竜マンション

会議』で意見を出し合い

日々の行き先を決めた。

ある日は、「海辺で夕日を見よう。」

また「高原で小鳥のさえずりを聞きながら

目覚めたい。」

またまたある日は「都会の夜景を眺めながら

ウィスキーを飲みたい!!」など…

そして夢のような生活を

堪能する日々が続いた。

 

そんな刺激的で素晴らしいマンションライフで

あったのだが、三年も経った頃

このマンションの住人たちを

次々に原因不明の病気が襲った。

その症状は、めまい、吐き気、頭痛、情緒

不安など様々だった。

 

どこの病院に行っても、身体的な

異常は見られない。どんな検査を受けても

はっきりとした原因が突き止められなかった。

住人たちは病気に苦しみつつも『原因究明

委員会』を立ち上げ、様々な角度から意見を

交わし調査を続けた。

 

その結果、「マンションが移動する際の

微弱な振動と日々場所が変わる事への

潜在的不安感が深層心理に

影響して体の変調を引き起こしているのでは

ないか」という結果が導き出された。

最先端のサスペンション技術で、部屋にいても

ほとんど揺れなど感じない

快適な住み心地のはずだったのだが…

『原因究明委員会』では、さらに対策が

話し合われた。

住人たちは、何日も何日も意見を交わし合った。

そして、やっとの事で答えを導き出した。

その答えとは…『どこにも移動しない』

 

「これからは地に足をつけ、

穏やかに暮らそうじゃないか!」

 

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今は、屈強な4本の足をしっかりと大地に下ろし

恐竜マンションは静かに佇んでいる。

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